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悲運の特急車2900

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 特急ホームに並ぶ人々の前に滑り込んできた季節列車「おおとね131号」
そのとき、声にならない落胆の空気が、確かにそこにあった。

 いつもと違う乗車位置の前に静かに止まったその車輛は2900型
別に汚れているわけでもない、色が違うわけでもない。
けれど・・・今や特急としては最古参になり、増発でもない限り出てこない、1編成しかない(分割はできるが)それは、一般乗客にとってはリゾート気分を少し(そう、ほんの少しだけではあるが)
スポイルしてしまう存在なのだった。
2900型の断面
2900型の断面。
屋根に手が届くほど極端な低床なのがわかる。
            *  *  *

 そもそも2900型は、上越線に対抗すべくスピードアップを図った北武のヒーローと成るべき存在だった。徹底した軽量化と低重心化。Z軸回りの慣性モーメントを低減させるための連接構造など。良くも悪くも、北武版SE車と呼ばれるだけのことはあった。
 その一方、2900などという半端な(試作の意味も持たされた)番号を付けられたり、裏で5000系を設計していたりと、会社のやる気のなさ(世間はこれを「慎重」「堅実」と呼ぶのだが。)が初めから見えてしまっていたのもまた事実であった。

 試運転の成績は上々。スピードアップも達成した。先行試作としてはまずまず成功したと言えよう。
 しかし、経営陣は量産化の決断を下さなかった。

 この車はカネがかかる。その投資に見合う魅力を備えているのか?
経営の立場からは当然の問いである。
 答え。
技術的な目標は(車輛としては)達成した。民鉄トップといっても過言ではない。
 ならば営業面ではどうなのか?
スピードアップはしたが、世の中の動きは以前ほどスピードを求めていない。
それでも顧客に訴求するだけのスピードアップをするには、軌道や信号・通信の整備を待たねばならない。
 それではスピードに代えて世間が求めるようになったもの・・・ラグジュアりー・カンファタブル・・・の点ではどうか?
 低重心、小断面のため天井が低く、圧迫感がある。
 SEのイメージから離れようとあえて角張ったデザインにしたのが、折り紙細工的で弱々しく、小さく見える。
 豪華さを演出しようとした前面デザインが、いかにも取って付けたようでかえって安っぽい。etc.etc.・・・
要するに、「カッコ悪い」のだった。
特急車の側面比較
並べてみると2900はやはり面白みがなく見えるのは仕方がないところか。

 それでも、量産して2900型で特急大増発でもすれば良かったのかも知れない。
言ってしまえば、もっとカッコ悪い電車など他社にもたくさんあるのだ。
だが、会社はその道をとらなかった。カッコ悪いのを気にした、というよりは、思い切って踏み出した一歩を「やっぱり勇み足だった」と判断したのであろう。
大企業というのもなかなか大変なのだ。

 時は移り、スピードに対する要求度はまた上がってきた。
しかし、第一線にはもはや2900の出る幕はない。
華やかな主役は7000系が演じ、脇役の座さえも凡庸な5000系のものである。
 非凡な才能を持ちながら、時代の要求と少しずれてしまい、ついに大舞台を飾ることがなかった悲運の特急車。
そのコンセプトを受け継いだ7000系が大活躍していることが、2900型のせめてもの誇りであると言えようか。
−了−
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